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スペシャルゲスト対談:佐々木俊尚×西成活裕(2)

「正直者がバカをみない」世の中がやってくる?

佐々木:社会心理学者の山岸俊男さんが、信頼についての本を書かれていますが、それによると見知らぬ他者を信頼するかどうかの指数は、日本人よりアメリカ人のほうが高いそうです。日本人は共同体の中の人しか信頼せず、その信頼は集団主義的な「安全」が元になっている。しかし、終身雇用の崩壊や非正規雇用の増大など、社会の底が抜けてきている中、日本もアメリカ的な「信頼社会」に移行せざるを得ないと思っています。

西成:日本人のほうが他者を信頼しないというのは意外ですね。

佐々木:現在のアメリカにおける「信頼社会」の基盤の1つとなっているのは、Facebookだと言われています。
例えば、自分の家に世界中からの旅行者を宿泊させる「airbnb」というサービスがありますが、普通に考えれば知らない人を泊まらせるなんて危険なことのように思える。しかし今は、Facebookをチェックすれば、その人の過去の言動だけでなく、どんな人と友達なのかも一目瞭然です。誰も友達がいなかったら信用できないし、怪しい人とばかり友達でも駄目。もちろん、情報をオープンにしないという選択もできるけど、それでは人から信頼されなくなってしまうという社会になっているんです。

西成:企業の採用担当者もFacebookを見ているらしいですね。
自分の言動がオープンになっている以上、常に「思いやりの心」を持って人とコミュニケーションしないと、インターネットの中で信頼を得ることは難しいという側面もあるのではないでしょうか。

佐々木:はい。その通りですね。

西成:「渋滞学」では、無理に先に行こうとせず、車間距離をあけたほうが逆に早く目的地に着く可能性があるということが分かっています。つまり、利他的に振る舞うことが、結果的に自分の得にもなるんですね。

佐々木:利他的な精神を持つことによって信用が集まり、結果、自分の得にもなる。「評価経済」という言葉がありますが、個人情報がオープンになることによって、「正直者がバカをみない」社会にだんだんなってきていますよね。「情報の渋滞」の話で言うと、自分のシェアしている情報の質が自分の価値になるという側面もある。だから怪しい情報ばかりシェアしている人には評価が集まらないし、そうした人には質の高い友達が集まらないため良質な情報も集まってこない。一方、情報リテラシーが高い人には同じような友達が集まり、良い情報が流れてくるので、偏った情報ばかり摂取する「情報の渋滞」を起こさずに済みます。さらに良い友達ができ……というポジティブフィードバックも起きて評価がどんどん高まっていくんです。

どんどん車線が狭くなる社会でいかに生きるか

佐々木:やはり、ネット上でのプライバシーの開示が進んで、透明性が高まったことによって利他的であることが可視化されるようになったことが、大きな変化ですよね。

西成:可視化されることによって、利他的に振る舞うインセンティブが高まりました。

佐々木:山崎製パンの運転手が、大雪で高速道路に閉じ込められた際、周りのドライバーにパンを配ったというエピソードがネット上で拡散して感動を呼びました。これも、もしネットがなかったら、周りの人は感動するけど、それだけで終わっていた可能性があります。しかし、今はすぐに情報が伝播するので、良い行為が埋もれなくて済む。
もちろん、山崎製パンのドライバーの行動は損得を考えたものではなかったと思いますが。

西成:人生を歩む上でも、「思いやり」がこれからますます大切になっていきますよね。例えば会社員の出世競争を考えてみても、始めは複数車線だったのに、課長、部長、役員、社長と進むうちに車線が少なくなり、渋滞が起きるようになってしまう。そのとき、それでも強引に先に行こうとするのか、それとも利他的に違う道を選ぶのか。昔のように右肩上がりの成長が保障されないこれからの社会では、一層そうした選択を迫られる場面が増えると思います。

佐々木:そのときに、「お先にどうぞ」と譲ることが結果的に得になるかもしれません。

西成:そうですね。なかなか難しいとは思いますが(笑)。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。最後に佐々木さんから読者の皆さんにメッセージをお願いします。

佐々木:今の社会情勢を交通に例えると、自分で自分を守らなければいけない場面が増えてきたし、危険も多く、道に迷う可能性もある。一方で運転スキルをマスターすればどこでも自由に遊びにいけるし、スピードをあげることも、ゆるめて道端の花を楽しむこともできるのが現代の良いところです。ですから、「思いやり」というマナーを大事にしつつ、人生を大いに楽しんでほしいと思っています。本日はありがとうございました。

佐々木俊尚(ささき としなお)
作家・ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社で事件記者を務めた後、『月刊アスキー』編集部デスクを経てフリージャーナリストに転身。情報社会をテーマに執筆、公演活動を展開。著書に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『レイヤー化する社会』(NHK出版新書)など多数。

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